第16回 超円高時代を考える

 

2011年の金融にまつわるお話といえば、なんと言っても円高でしょう。


現在の円高傾向を、東日本大震災の後から始まったものと考えている方も少なくないようですが、実はこの傾向、2007年の中頃から始まっています。

 

2007年の中頃に1ドル=120円ほどだった日本円は、わずか3年足らずで75円近くまでになってしまいました。信じられないほどの円高傾向です。(ドル以外の通貨にも、かなりの割合で円高になっています)

 

この円高というものは、日本にとっては非常に厄介な存在です。
なぜならば、日本は世界屈指の「加工貿易国」つまり、簡単に言うと「材料を輸入し、それらを加工して製品にして輸出して成り立っている国家」であるからです。

 

ではなぜ、円高は日本に不利に働くのでしょうか?
ごく単純に言えば、日本の製品を輸入していた外国が、これまでの値段で日本製品を購入することが出来なくなってしまうからです。

 

例をあげて考えてみましょう。
1つ1000円の製品があるとします。
この時、1ドル=100円であれば、10ドルでこの製品を1つ購入することが可能です。しかし、これが、1ドル=50円となってしまうと、同じ製品を購入するのに20ドル必要になってしまいます。

 

同じ製品の値段だけ上がれば、もちろん誰もが買い控えするのは間違いありません。
外国で日本製品が売れなくなれば、もちろん日本国内の景気も悪くなっていきます。これが、昨今の不況の大きな原因の1つです。

 

日本は輸出によって利益を出しているので、日本は円安の場合に最もメリットを受ける経済構造を持っています。

 

しかし、なぜ金融不安をこんなにも持った日本の通貨がこれほどまでに他国で買われているのでしょうか?それには大きな理由が2つあります。

 

①様々な理由の結果、日本国内の賃金が上昇しなかった

②日本の金融不安を大きく上回るくらい、世界の主要通貨(ドル、ユーロなど)に
  信用が無い

 

まず、1つめですが、日本国内の財政的な問題から、日本では銀行の金利を引き上げることができません。また、度重なる緩和政策から、日本はデフレ(物価や給料が下がり続ける)が基本の国家となりました。日本を除く、世界中の大半の国々はインフレ(物価が給料が上がり続ける)の傾向が基本ですから、その差を為替が埋めてきたという訳です。(理解しやすくするために非常に単純化して書いてあります)

 

また、2つ目の理由としては、ユーロに加盟しているギリシャが自国の財務諸表を粉飾(つまり国家予算の報告書に嘘ばかり書いていた)していたり、アメリカの国内財務情勢が信じられないくらい赤字になっていたりするものによります。もちろん、日本もそれらの国々に負けないくらい酷い状態なのですが、規模的な観点からすると、ドルやユーロのほうが世界に与える影響が大きく、また日本国内の負債に対する複雑な仕組み(日本政府は借金のほとんどを日本国民から借りている。つまり、外国を巻き込んでいないので破綻リスクは低い??)から、単に日本の通貨が買われているのです。

 

 

<最後に>

 

日本の通貨「円」が世界中で買われているからと言って、安心してはいけません。一部には円高は「日本円の信頼が世界に証明された証拠だ」と考えている人もいるようですが、現在の状況は「一時的な避難場所として円が選ばれている」ということに過ぎません。欧州のユーロ危機やアメリカのドル危機が何とか正念場を超えた後には日本の円が危機の中心になる危険性も十分にあります。(日本の財政不安が解消された訳ではありませんので)

 

インターネットなどの情報サービスが発達したおかげで、現在の金融市場は非常に短期間で劇的な変化をもたらします。大切なことは、1つの場所に全ての資産を集中させるという極端な投資スタイルを避け、ある程度世界に資産を分散させつつ、世界全体を見た投資戦略を考えていくことだと思います。